あるものを活かしきるといいながら、必要最小限の改修をご提案するには勇気がいります。
だから、まだまだものを粗末にしているのだと反省することも多いです。
この改修もそうでした。
よくある和式便器から洋式への改修工事です。
今までそうしたから、今回もそうする。
それでは、やりがいも含めて、個々の空間の個性も見失ってしまっているように思われました。
見た目は特別なことはない改修だけど、どの空間にもそれぞれの物語があります。大切にしたい事はたくさんつむがれます。
全てに意味があり、学びがあります。
個性を生かすということは欠点を無くすということではなく、むしろ欠点を強調することだとも思えます。自分の欠点がどこにあるかを知って、その欠点が何よりの魅力になるように。
オーナーであるお父様が口にされた言葉があります。
「このタイルの色が好きだから、補修するのも同じタイルで。」
そのようなニュアンスの言葉を頂いたと思います。
最初に既存のトイレの様子をみさせて頂いただけで、今まで丁寧に拭き掃除をされてきたトイレだと感じました。
だからこその傷みも改修中に分かったこともあります。それもこのトイレにつむがれた物語であり、個性です。
奇抜なデザイン、お金をかけて「個性的」という言葉で演出することなく、
根っこの大切な部分を捨て去り、個性を見失わないように。
お父様に頂いた言葉を学びにさせて頂きました。
同じ色のタイルを現存のもので見つけることができたと思ったのですが、
解体してみて、正確な厚みの違いが分かり、貼り合わせてみて本体の大きさの微妙な違いがしわ寄せとして出て馴染ませきれなかったこと、このような必要最小限の改修の難しさとして痛感しました。
今までの暮らしを継承し、拭き掃除を基本とする。この姿勢が清らかであり、そこから簡素で美しい暮らしがつむがれるのだと思いました。