現場のやりとり

大工さんがそれまでの会話の流れで一言口にされていました。

「息子(息子さんも大工)には今までしたことない(掟破り)様なことを指示された時は、するなと教えた。」(例え指示されて造ったとしても何かあったときは造った大工も無知だと思われるから。という意味)

と。

そして続けて

「月と雨は・・・・(笑)」とも。

じゃあ・・・・うちの現場はやってられないですね(笑)

「いや(意味深(笑))」

一般的に日本の住宅の天井のど真ん中にあるものがない。

一般的リフォームで普通は隠すところを隠さず、そのまま出してしまうらしい。

一般的デザイン会社が拘り辻褄合わせをしようとする部分に拘らず、旧い家に無理させてまで作り込もうとしていない。

と、いうのが大工さん曰く「適当に簡単に済まそうとしているのではないか?」と疑われてしまう様なのです。僕としては「そういうことをしない」というのが拘りといえば拘りなのですが。そんな考えの人に今まで会ったことがないから疑われてしまいます。しかしそこを疑うこの職人さんの価値観こそが正真正銘“お客様のことを考えている優しい大工さん”の証拠でもあります。

そんな姿勢が優しい大工さんからしたら、これじゃあまりにもお客様が可哀想じゃない?と心配してくださっているのです。だから、こんなやりとりしても僕は職人さんがちゃんとお客様を思って造ってくれているのだと嬉しくなる瞬間なのです。一般的にみて酷いのは僕の方です。こんな会話をしてもちょっと弱気にはなっても「それだから人の心を奪えるのだと」ちょっとだけ自信を持って進めていけるのは残りものリノベの世界観を理解して頂いて評価して頂いているクライアント様のお陰。

こんな心優しい大工さんがじっくり時間をかけて綺麗に貼ってくれた構造用合板は、目を近づけてじっくり覗いてもそのままお化粧として見せたいくらいに隙間もなく美しいのでした。それはこの旧い家が元々全く狂いのない空間だったかの様に錯覚させるほどです。

さて。

次の作業からこの旧い家に新しい命を吹き込む工程にいよいよ突入していきます。

さて、さて。

本筋を正しく学び研究して近年の一般常識をあえて外す。図面の手描きが描けるのも、今ではほとんどの現場管理者が描いていない加工図を手間をかけて自分で描くのも、現場で造ってくれる職人さんとの無言の駆け引きであり信頼関係の土台。ただ常識なく非常識をして炎上商法の様な下心で作るものでは人の心は奪えない。

ささやかな日常の魅力に気づける為の非日常を創り出す為に、作り込まず旧い家にあったもので誂える。そんな心で。目の前にある旧い家の問題や不具合を隠さず、一般的な欠点すら生かすことで魅力的に面白くしてこそ、月と雨ですから。

残りものリノベの世界観をここからじっくりと仕立てていきましょ。