(あとがき)時つむぎの暮らし

〜「月」「雨」という思想〜

月を美しいと感じる心で雨を観る。

今ある条件の中で出来ない事を考えるより、その中で自分が出来る事を考えたのしむ。無い物を欲しがるのではなく、在る物で出来る事を考える。要らない物を捨てるより、在る物を活かし切る。

それは妥協ではなく、唯一無二のアイデア。すると必ず一点モノのディテールが生まれる。そこに物語もつむがれる。

飛び越えて時間を進めるような事を考えず、ひとつひとつ小さく積み上げる。そんな小さく時をつむぐ暮らしを創り育むこと。それが理想。

時をつむいできた古い家はそんな理想の暮らしを育んでくれる。

「古さ」が真新しいものより魅力的と共感して頂ける方の為につむぐ物語。既存住居は視点を変えると“可能性”を秘めている。それは、使い込まれた質感、眠っている素材を活かし、限りある予算の中で自分の美意識を妥協することなく、遊び心に溢れた空間が出来上がるという可能性。

「どこにでもある」ではなく「ここにしかない」。壊れても「新しく買い換える」ではなく「コレをなおして使いたい」。そんな我が家の10年後、20年後に美しさを増すヴィンテージ。今あるモノに心を奪う魅力を創る。住む人が今ある我が家を育て、大切に永く使い込み、住居としての価値を高めていける世の中に。

月と雨が提供しているのは、ただのリフォーム・リノベーションではなく「今あるモノを大切に使い続ける」という暮らしの中の思想。月と雨建築舎が想う「ヴィンテージ」とは「ある年代の限られた逸品」だけではなく「自ら育て上げた一品」もなり得る事ができると強く信じて、今ある住居の個性を見極め、新築ではできない“古く美しい風合い”とクライアント様ご家族の“生き方、暮らし”を「花」として空間に添える美しいリノベーションを試行錯誤と葛藤を繰り返しながら追求しています。

 

 

「月と雨建築舎」という名前には「日本古来から存在する美意識の1つ「風情」を感じる心を大切に、日常空間こそ、美しく。古いモノを丁寧に直して永く使い続ける暮らしを創る美しいリノベーションを志したい。」という想いを込めています。「月を美しいと感じる心で雨を観る」そんな感覚を常に大切にして、リノベーションで月を美しいと感じる心と同じように、雨さえも美しく観る事のできる心を育みたい。たくさんつくって、たくさん消費する社会の中で、月と雨建築舎は今ある我が家にヴィンテージへと育て上げる愛着を、本当に愛せるものを選び、永く大切に使い込む暮らしを心がけたいと思っています。

 本当に愛せるものは「壊れても直して使う」ことができる。そして「無いモノは創ることを考える」「今あるモノに“古く美しい”という新しい命をふきこむ」この考え方は親の背中を見て育ち染み付いたものです。この3つの考え方を月と雨建築舎では「ジャンクスタイル」という生き方の思想として大切にしています。「ジャンクスタイル」という言葉は月と雨にとってはインテリア様式の一つとしてではなく、生き方の思想です。それを土台とした上で「こうなりたいという明確な目標に向かって行動する段階に幸せを感じること」が「豊かさ」なのだ。と、実感して頂きたいと思っています。このジャンクスタイルという思想が暮らしに馴染めば、住む人が今ある我が家を育て、大切に永く使い込み、住居としての価値を上げていける世の中にできるのではないかと挑戦しています。

建築は知識のみでは建築になりません。どう暮らしたいかという事のみで設計という表現の組み合わせを行い、センスという言葉で飾られた流行りのスタイルで装飾し、規定に従って施工する。これだけでも建築はできてしまいます。そこに心はなくてもそれなりに出来上がってしまいます。でも、その建築は建築であって建築にはなりません。建築というものは、本来の使命を真に考え込むことが大切になります。そう考えると建築は「制作」と「創作」の二つに二分されます。インターネット・スマホ・SNS・各種アプリの普及で、流行りのデザイン(形態)と制作知識は検索すれば手にはいる時代になりました。これらをまとめて実践したものは「制作」になります。そして、現在の住宅産業はこの様式と差異は無いと感じました。デザインも「原理を知らぬ」というよりも「原理を持た無い」と思われるものが多く見られます。「住居」とは建築の中でも人のスケール、暮らしに一番密着している建築。住居は制作される以上に心を込めて、魂を込める「創作」が必要だと思っています。「創作」とは住む人と向き合い、その人の心を奪う独創的な考慮によって創造する作品。昔は住居を作品と呼ぶことへの抵抗がありましたが、最近ではあえてその「創作」という概念の必要性を感じ「作品」と称するようになりました。「独創的考慮」と言っても、ただ目を奪うだけの形態・流行りの模写ではなく、「この住居の状態に必要な機能・秩序・法則・調和を考慮した美の比例配分」を重視した独自の視点、原理を追求した思考です。

歴史を積み上げてきた建物を改修するには、日本独特の「職人の技術」が必要になり「高い技術で“心のある”職人」のチームも必要となります。そうして創り上げ、完成させたお家は技術の持ち寄り、結晶です。しかし完成した後、住む人が「生活しながら自ら手を加えることが出来ない」という家であってはいけないと考えています。住みがら空間に手を加えていくことのできる「余白」があること。それこそが、家を使い込んでできた汚れや、傷を「古く美しい」という風合いに変えると考えます。自分で気軽にお手入れ、メンテナンスもできることの大切さ。「壊れても直して使い続ける。無い物は創る。」そんな価値観を大切に支援させて頂き、一緒に「自ら手を加えるという暮らし」を実現することをサポートさせて頂きたいと思っています。「創る」だけでなく「育てる」という、モノの“アジを引き出す”メンテナンスという行為は、「愛着」を生んでくれます。その軸の大切な基礎は「職人の正しい心」が家に“移る”ことであり、住む人が永く大切に使い込める心を奪ったお家であること。それが10年後、20年後に美しさを増すヴィンテージになりうる条件だと思います。

大量生産、大量消費の社会の中で、私たちは時間をかけて大切なお家と向き合い、時重ねて風合いが増し、変化を楽しめる暮らしづくりを、心を込めた暮らしの創造・丁寧な施工を計画、実施させて頂きます。