残りものリノベに取り組むお家でよくある会話です。「旧い家だから仕方がない。あまりお金をかけずに」とクライアント様は望まれることが多いのですが、これは普通の新しくするリフォーム・リノべでは聞かない表現です。
この“お金をかけすぎず”が難しいのが「職人の世界」なのです。
職人も手間をかけ、時間をじっくりかけて、その分お金がかかるというのが昔ながらの常識で、「綺麗に仕上げたい」と思ったら、素人では気にかけない「下地づくり」にとても丁寧に時間と手間をかけまるのが職人と素人の違いです。
細かい部分を少し挙げると
水平と垂直をきっちり出す。四角を綺麗な四角に造っている。隣あう板の不陸を直しながら貼り合わせる。その為には旧い家の傾きに合わせてきっちりした下地を造り直す。新しく購入した木材、合板も癖がある。その時も材料を直す。そんな作業。それでも、きっちりつくる職人は「きっちりつくろうとして悩む」直すところがいっぱいだから。だから手間が増え時間が増える。恐らくお客様からしたら、どおでもいい話かもしれません。見ていても何も変化が出ないので数日間は同じ風景。

その様な背景と職人の悩む姿を横で見ていると、つい口にしてしまう言葉があります。「そこまで直さなくていいですよ」というニュアンスの言葉なのですが、この言葉の表現が難しいのです。職人にとって「ごまかす」「手を抜く」という表現に聞こえてしまうと、一生懸命つくっている職人に失礼になってしまいます。「そんな仕事はできん」そう言われるとこちらが手抜きを依頼した様で自分も情けなくなる時があります。
が、このやりとりが僕の「感覚のブレーキ役」なのです。残りものリノベは「残りもの」と新しく創るところのコントラストが重要です。その為に、これだけ高い意識の職人さんの技術や感覚は料理で例えると「隠し味」です。出汁から丁寧につくる料理の様に、良い職人と創る空間は遠目の見た目は変わらないかもしれないけど、この空間が美しいと感動するバランスを保っているのです。そこにはこの職人の「下地」があるからなんです。
「お金をかけずに」という表現と「そこまで手を加えなくていい」を良い意味でのニュアンスで使う絶妙な残りものリノベの空間は様々な葛藤を抱えながら創られている。と、いうちょっとした残りものリノベの現場の“葛藤”内緒噺を今日は紡がせて頂きました。
嗚呼、暮らす人にも造り手の職人にも感動してもらえる残りものリノベを成就させたい。
